■人形職人福田眞一を通して見えた「和こころ」

誰よりも人形が好き。8年前に人形職人の経験を基に、人形修理ネットワーク福田匠庵を立ち上げた。
日本国内だけではなく、世界中にあるスゴイ人形との出会いを大切に、もはや単なる人形職人の枠を超え、世界から依頼を受けるまでになった。
一体一体の人形にこめられた想いをつなぐ、福田眞一氏の姿勢に、「和こころ」が見えました。


■人形業界の現状

福田さんは元は京人形の職人です。
「昔は嫁入り道具には必ず入っていた日本人形も今は一般的ではなくなってきました。
昔は趣味で人形を作る人がたくさんいたんです。
ウチは昔は人形の材料屋をやってたんです。だから今は手に入らない細かい部品が元々あったんです。

ひな人形とか五月人形などの節句に関する職人の技術はまだ需要があるから受け継がれています。

私たちも年間で150体くらいの新しい人形を作ります。
でも、本当のというか普通の人形の需要はどんどん減ってきてるんです。
職人も廃業して、技術も途絶え始めています。

■「取り替える」ではなく「生かす」人形職人としての仕事

「京都の物産展などをしていると、想いがこもった人形を持ってる方から直せないかというお話を貰うんですね。
昔々から代々引き継いだ人形を大切にされている方がいるんです。そんな中で8年前に、人形修理職人ネットワーク「福田匠庵」を立ち上げました。すると、北海道から沖縄まで、いろんなところから問い合わせが来たんです。100年200年前の人形は当たり前、中には陶器でできた博多人形の修理を依頼してくる人もいたんです。
博多人形は木端微塵に割れてたりするんです(笑)
※修理事例

そういうのも直せるんですね。
修理はあくまで修理なんです。例えば全く新しい顔にすげ替えたらそれは修理ではないんです。
ウチの職人のいろんな技法を合わせて、日本人形だけではなく、アンティークドールの修理も受けています。
この間はインドネシアの木製の人形の修理もしました。

そして、修理は「精度」が肝です。
いろんな業者があるんですが、精度はバラバラです。

要はみんなどこに持って行っていいかわからんのですね。
今の世の中、小売業者は古い人形を処分して新しい人形を売るのが一般的な状況です。
百貨店とかに持ち込んでも、直らないから新しいのをと言われてしまう人形がウチに回ってくるんです。
そんな中で大切にしている人形を持ちこんでいただけるのはとても嬉しいです。」


■人形修理の原動力

「色んな所で相談会をするんですが、その度に大切にしてる人形を持ってくる人がいるんです。昔のもんはものすごいものがあるんです。昔の職人さんの技術は想像を超えるものもたくさんあります。お顔、紙の結方、表情、振りね。目つきとか、連獅子の隈取りが実物と全く変わらないようなものがあったり、弁慶っていう60cmくらいの巨大な人形が有ったり。もう、ものすごいんです。

地域によっても髪付の仕方、表情、材料、顔の艶など、例えば関西と関東では実は全然違うんです。

江戸時代末期から何代もっていう人形が来るんです。ちゃんと大事にして持ったはる人がいたんです。
我々も見たことないものがいっぱいなんです。

だから見せてもらった時に、是非修理をしてつないでくれって言うんです。
とりあえず残しといてくれって。ほかしたら(捨てたら)無くなるから、博物館でもいいし、とりあえずおいておいてほしいんです。
スゴイ技術をちゃんと残してほしいんです。

人形は人形じゃないんです。家族としてとらえてたり、本当に特別なもんなんです。

私は、人形を活かしてあげたいし、引き継いでほしい。
昔の人形には、今では作れへんような技術がいっぱい詰まってるんです。
それを後世に伝えてほしいんです。

時代によって、中の仕組みが違うんです。見えるとこだけ生地を貼るのが昔のやり方。今は、より本物に近いカタチにするんです。昔は材料も少なかったから敢えてその手法に則って直します。塗り直しも昔の感じを残して直すんです。新品にしたらアカンのです。それをわかって、昔の形を残す修理の仕方を考えるんです。

ただ直すんじゃないんです。見た目は古いかもしれんけど、素晴らしいものだってことを、その人がどういう伝え方をするか、どういう想いで伝えてきはったか。
ちゃんと話をしてわかってもらいたいと思っています。

いろんな人形を見せてもらって、みんなが知らんところを知ってるんが楽しいんですね。

想いがこもった人形を想いを込めて直した時に、喜んでくれるお客さんの声を聴くのが本当に嬉しいです。
挨拶の手紙とか来たらものすごい感動するんです。
今は新しい人形が、100年後にまた修理をしてもらえるような、想いがこもったものになったらいいなと思っています。

僕は本当に人形自体が好きなんです。そして、修理というものに興味がわいた。今は、修理をするのが生き甲斐です。僕がいる限り直してあげようという気持ちでやってます。」


■想いがあるから進化できた

「修理をしながら、もっと何とかできひんかっていつも考えてる中で、新しい技術を見つけたんです。
全く別業界のつながりだったんですが、それのおかげでお顔のしみ抜きにかかる時間と手間がものすごい削減できたんです。

人形の修理には、染の技術、仏具の技術、着物の技術、和裁の技術、塗りの技術、金工の技術など、いろんな技術が入るんです。
それらは全部手作業です。

今僕の周りにいる協力者の方々は、業界が違っても一緒に何かやりたいっていう仲間なんです。
自分の仕事の範囲を超えて、いろんなことに挑戦しようっていう気持ちを持ってる人たちだから一緒にやれるんです。

基本的にビジネスではなく、何とか直してあげたいっていう気持ちが基本なんです。
人形の持ち主の「直してほしい」っていう気持ちが伝わってるんですね。

最初は髪の毛だけ直す技術があればって思ってたんです。
でも、お客さんがウチに来られる時、おじいさん、おばあさん、娘さんが一緒に来るんです。
おばあさんがとても大事にしてたものを娘さんが引き継いで、何とか直して飾り続けたいと。

見てみたら、髪の毛だけではなくて、ここもそこもって直したいところがいっぱい出てくるんですね。
何とかしてできひんかって。自分の知り合いを通して何とかならんかなって。
そこで、30年来つながってた仲間に声をかけて、職人ネットワークができたんです。」


■これからの夢

「今までいろんなところで相談会をやってきました。その度にたくさんの大切に引き継がれてきた人形に巡り合えます。
日本国内にもまだまだ素晴らしい人形が残っています。市松人形なんかは、外国人にも人気で、海外にもたくさんの人形があるはずです。
そういう人形と出会って、どんな風に引き継がれてきたかを知れたらきっと面白いと思います。
そんな風に人形を大切に持っている方々の想いを受けて、そうした人形をもっと生かすことができたらいいなと思います。」


■取材を終えて

福田さんと話していると、福田さんが本当に人形が好きだという想いが伝わってきます。

人形には制作者の名前がわからないものが多いそうです。
誰が作ったかわからないけど、当時の職人さんたちの想い、そして、その人形を大切にしてきた持ち主の想い、そういうのを全部ひっくるめて感じ取り、福田さんの人形に対する想いで修理をする。

元の形をできる限り崩さないように、時代に合わせた技術を駆使して行う作業は、実際に見ると時間がかかることも納得。
見えないところにものすごい技術が使われています。
福田さんが最優先するのは、持ち主が感じる価値を損なわない修復を行うことです。
外部の業者が対応できない技術は、自分たちの技術でカバーする。その積み重ねが、今の状況を作ってきました。

需要という意味ではどんどん少なくなっている人形職人の業界ですが、何故ひとつひとつ手作りで手間暇をかけて作る必要があるのか、人形作りと修理に職人の手が必要な理由を福田さんはハッキリと理解されています。
目新しいものに目がいきがちな中で、大切だと思うものは大切にした方がいいという、当たり前のことを地道に実践しているその姿勢からは、私たちが教えてもらえることがたくさんあると感じました。

■紹介

福田眞一(Shin-ichi Fukuda)

京人形 福田人形 代表取締役 / 人形修理職人ネットワーク 福田匠庵 主宰
昭和21年     4月21日 京都生まれ
昭和43年     初代福田翠新に師事 京人形着付け
平成元年     福田人形代表取締役就任
平成15年     京人形商工業協同組合理事長 京都産業振興センター理事就任
平成16年     伝統的工芸品産業指定産地功労者褒章
平成17年     日本人形協会 業界功労賞 宝鏡寺運営委員会 委員長 京都伝統工芸会 副会長
平成18年     日本人形協会 副会長 日本人形協会 京都支部 支部長
平成19年     秋の褒章 黄綬褒章授与 内閣総理大臣 福田康夫
平成21年     京都職人修理ネット 副代表

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