大阪の平野で刀研師として活動をする真津さん。
平野区の「平野町ぐるみ博物館」という企画の中で刀の博物館をされています。
刀の展示から研ぎ場の見学までできるように自宅のガレージを改装し、刀を知ってもらう環境を作られています。

私たちは今まで刀を見ていたけれど、本当の意味では見ていませんでした。
実際に会って話を聞いて、理解して初めて分かったことがあります。

刀研師としてだけではない、刀の魅力を伝える伝道師としての真津さんの姿勢に「和こころ」が見えました。

「刀研師の役割は長所を引き出して、短所を目立たないようにカバーすることです。
そうして刀鍛冶の苦心したものを引き出すんです。

修復に当たっては時代とか国とか流派、個々の刀鍛冶のもつ特徴を把握した上での研磨が必要です。
みんなが同じように見えるとダメ。個性を尊重してそれにのっとった研磨をする。

ということは、刀研師が刀をわかっていないといけない。つまり刀の鑑定ができないといけないんです。

刀に合わせた研ぎが必要。研ぎが刀の前面に出すぎてはダメ。出すぎたらあかんのです。
刀鍛冶と刀研師の関係は、刀鍛冶が主役で刀研師は縁の下の力持ち。
研師の仕事は錆びたら終わり。分かりやすい銘を打つこともないです。
でも、刀研師の目線から見ると、錆びても素晴らしい研ぎはわかるんです。」

「古い刀を研ぐ時、僕は以前研いだ人の研ぎ方をじっくりと見るんです。
そして良い研ぎだったら同じように研ぐことが多いんです。

刀研ぎは受け皿がちゃんとしてないと、ちょっとのことを見逃してしまう分野なんです。
じっくりと見たとき、研ぎ方は刀が教えてくれるんです。
人間国宝とか、研いだ人はもうこの世にいなくても、その人がした仕事が私に教えてくれるんです。

一通りのことを覚えて満足したらあかん世界。
職人は死ぬまで勉強。僕らでも弟子に教えながら、勉強をしています。
人を教えるということは初心に立ち返るということ。弟子の仕事から学べることもたくさんあります。
そういう姿勢で刀にも人にも接しています。

写真でもいい研ぎしてるなというものもあります。書物からも研ぎ方を教えてもらっています。」

「いろんな刀を見せてもらうことが勉強。錆びてしまった刀でも見せてもらえることが有難い。
見せてもらえることが感謝なんです。

一本一本、難しい課題を与えられて、克服できたら技術の財産が引き出しに入る。
試練を与えられるというのが我々刀研師にとっては財産なんです。

新しい技術を身につけて、その先にあるのは『日本刀を良くすること』
現代刀は、直接話を聞くことができる。でも、古い刀はそうはいかない。

だからこそ、当時の作刀家に『いろんな人に研いでもらったけどお前が一番ワシの想いに近いように研いでくれてるわ』と言ってもらえたら嬉しいと思っています。」

「必要とされているものではない刀を、みなさんがお金をかけて守ってくれているのが有難いんです。

若い時は人前で研ぐのは大嫌いでした。
でも今は途中の段階でも人に見られてもいい仕事をするようになりました。
毎回これが最後の仕事になるかもという想いで仕事をしています。

もし、仕事の途中で僕が死んでしまっても、仕事を見て弟子が後を引き継げるように。
仕上がってから見せるんでなく、途中でも見てもらってもいいような仕事をしています。

御刀のために、御刀に懸けて、ちょっとでも良くしてあげたい。
とにかく、刀が良くなってくれたらそれだけでいいんです。」

「刀研の仕事の魅力は『完璧はない』ということだと思います。
僕は今まで百点満点な仕事はできたことはない。
人に評価されても自分で完璧な仕事ができたと満足できたことはないんです。

一回仕事した人が数十年経ってもう一回持ってきてもらった時、キレイに手入れをしてくれている時はめちゃくちゃ嬉しいですね。
お金とは別の話ですけど、一回手掛けた刀は二度と研ぎたくないくらいの気持ちです。

毎回の仕事で自分的には納得がいかない部分がある。
これは、今現在も成長しているということなんだと思います。

仕事をこなすごとに成長する。1日前の自分なら納得できたものが、今は納得できない。
もっと良くしたい。ちょっとでもよくしたい。その姿勢が、技術に結び付き、お客さんの満足につながっているんだと思います。

「刀を“良くしたい”」その想いがお客さんに伝わった時、手入れをしっかりとして長く“良い”状態を保ってくれる。
刀を”良く”し続けることは、後世にその刀を引き継ぐために必要なことなんだというのが根底にあるんだと思います。」

「僕の夢はここ、大阪の平野に刀の常設館を作ることです。

僕は平野という町が好きです。
かれこれ約7年、平野のまちづくり「まちぐるみ博物館」の仲間に入って活動をしています。
街歩きの中で気軽に入ってもらえるようにガレージを改装して見られるようにしています。

小学生が来た時には、刀を実際に持たせるんです。
やんちゃな子もおるけど、その時はおとなしくなる。
ショーケースのガラス越しだとアカンのです。実際に持ったらわかるもんがあるんです。

最近はゲームがきっかけで刀に興味を持ってくれる人が出てきました。若い女の子です。
お金はないから基本的には模造刀がほしい子が多いんです。
そんな子たちにも実際に刀を持ってもらうんです。
すると、そんな子たちも、本物がほしくなる。
模造刀は買わずに、お金が貯まるまで待って本物を買うようになるんです。
そういうのが良いんですね。」

 

「イメージとしては海外から来る方のコースになるようなものをつくりたいんです。
関西は京都奈良だけではない、大阪新刀という素晴らしい文化もあるんだって。

来て見て触れて写真も撮れる刀の博物館。
それをこの場所平野でやりたい。刀という日本の文化を継承していきたいと思っています。」

いろんなきっかけで、いろんな人に刀に触れてもらい、良い刀を少しでも後世に残していきたい。
言うだけではなく、それを今できることから実際に体現されていることに衝撃を受けました。

刀研師としての真津さんの想いは「刀を良くしたい」ということ。
それは、後世に素晴らしい刀を残すための活動でもあると思います。
正に「和こころ」!

そして、私たちにとってもう一つ衝撃的だったことは、刀の魅力を伝える伝道師としての真津さんの姿でした。

真津さんの凄い所は、「刀は特別ではないと捉えて欲しい」という願いを体現している人だという点です。
工房に行けば刀が自然に置いてある。
わかりやすく説明もしてある。触ることもできる。
刀を研ぐだけではなく、その一歩先、「それをどうやって拡げていくべきなのか」を考え、実践されています。

職人として、途中を観られても構わないというスタンスを取ることだけでも難易度が高いことです。
思っていても、中々実践できないことです。

でもそこにとどまらず、「どうすれば一般の人たちにもっと刀の魅力を知ってもらえるか」という次のステップに挑戦されている。
実践するとなると一朝一夕ではできません。一人では到底実現できないと思います。
真津さんはそのための仲間を集めたり、自身の夢として想いを発信し続けています。

研師としての仕事だけではそこは考える必要はありません。

本来、本物をほしいという気持ちを持った若者がいることを私たちは喜ぶべきなんだと思います。
でも、何か、そこに見えない壁があるように思います。若い女性が刀を持ってどうするんだ的な。

芸術品は若い女性が持っていてはいけませんか?
真津さんはそんな壁を壊そうとしています。言うだけではなく、実践されています。
もはや刀の魅力を伝える伝道師としての真津さんの姿がその後ろに見えている。
そこが私たちをしびれさせたんだと思います。

素晴らしい仕事をすることは、真津さんにとっては大前提で、夢のための通過点でしかありません。
平野という土地で新しいものに挑戦する真津さんの姿勢はすごいです。

業界的には厳しい。でも、信念を持って実践し続けられている。
それは、刀に魅力があるということなんだと思います。

何の知識もなく触れてみるだけでも「すごい」と感じます。
でも、こうした真津さんの生き様を知った上で触れてみると、もっといろんなことに気づけると思います。
一般的に持っている刀へのイメージは、イメージでしかなかった。
私たちは、刀を知ってはいましたが、本当の意味では知らないことがたくさんあったんです。

共感してもらえる部分があるなら、是非一度、平野を訪れてみてください。
そこには、私たちの生活にも生かせるたくさんのヒント「和こころ」が詰まっていると思います。

 

真津仁彰(Hitoaki Manazu)

・(公財)日本美術刀剣保存協会会員
・ 熱田神宮刀剣技術奉納奉賛会 会員
・ 日本刀真澄会 主宰  同 研磨研修会講師

◆経歴
・ 昭和25年(1950年)研師・真津仁人を父として、熊本市で出生。
・ 昭和36年(1961年)8月 大阪に移住。15歳より父・仁人に師事し、刀研師の修行開始。
・ 平成8年(1996年)日本刀真澄会を結成
・ 平成10年(1998年)日本刀真澄会研磨研修会を開講
・ 平成20年(2008年)かたなの博物館 開館

◆受賞歴(抜粋)
日本美術刀剣保存協会主催 研磨コンクール
・特賞2回
・優秀賞2回
・努力賞4回
・入選2回

◆研磨履歴(概要)
-三笠宮寛仁殿下御焼入れの御短刀
-伊勢神宮「御遷宮奉納御太刀」
-住吉大社「御神宝剣」(大阪府指定文化財等)
その他、数々の展覧会用の研磨を拝命
-第69代横綱 白鵬翔関の 守護御太刀(奈良県無形文化財 刀匠・月山貞利師作)

Writer

masaya

八田雅也 Masaya Hatta

KAZOO(カズー)代表
ジャンルにこだわらず、魅力的なものを見つけ繋げる企画師。京都と東京を中心に活動中。
軸を持って生きる人、かっこいい生き方をしている人を探しています。