庭はその家の顔になる。庭造りは植物とのコミュニケーション。
施主の家が栄えるように木々の特性を見極め、数年後の景色をイメージする。
その景色を施主と共有してからでないと作業に入らない。
できた庭は定期的にメンテナンスを行い、歳月を経てより奥深い庭へと成長させる。
施主との信頼関係の中で成り立つ作庭家中村雄三さんの姿勢に、「和こころ」が見えました。
「古くは、平安時代に記された寝殿造の庭園に関する施工法『作庭記』から始まりますが、それは風水等を重んじて作庭されていました。
その後、仏教家や文化人が その知識を源に作庭されて来ました。
最近では植木屋さん、造園屋さん、作庭家と称する方々が手掛けるようになり今に至っています。
庶民にまで庭造りが及ぶのは1980年から。
京都では1200年にも及ぶ年月が淘汰して 優れた庭が数多く存在しています。
しかし、1990年代初めのバブル期以降は一握りの方へと逆戻りの時代になってきており、人や家門等の栄枯盛衰により今後も淘汰されて行くでしょう。
が、やっぱり京都は良いな~と感じるばかりです。
京都の庭は 京都の宝・日本の宝・世界の宝 と思います。」
「京都では、昔はお寺の高僧が庭づくりのノウハウを持っていました。
作庭家は施主(お寺)の指示通りに庭をつくる中で、庭づくりのノウハウを身につけてきました。
時代と共に一般家庭にも庭を作るようになり、作庭家は高僧から受け継いだ庭づくりのノウハウを一般家庭の庭づくりに活用するようになりました。
ただ単にきれいな庭をつくるのではなく、日当たりや、土地の特色、家の特徴などを把握し、その家に合った庭を提案する。
内側に生える枝は自然に枯れていく。下の枝は日光を求めて大きく広がる。
一本の木の中でもそれぞれの枝が生き抜くために闘っています。
そうした関連性や細かいポイントを理解した上で剪定ができて初めて、調和のとれた庭ができあがるんです。」
「木の成長には時間がかかります。
一本の枝もそこまで伸びるのに何十年もかかっています。
切り方によって木の人生が決まりますから、枝を切り落とすのはとても責任の重いこと。
木の変化を決めるのはとても勇気のいることです。
だから木を切る時は常に真剣勝負です。」
変化する美しさと、変わらない美しさの調和を図る。そのために受け継がれてきている伝統の技術が「透かし」です。
淘汰される枝とそうでない枝を見極め、不要な枝を切り落とす。
「すっきりしたね」と言われない自然な形で風景を整える。
放っておいたらどんどん太くなっていく幹も、枝の切り方を工夫することで年月が経っても太さがほとんど変わらない状態を保つことができます。
本当の職人の技術とは、「優しく景色を包み込む技術」なんだと中村さんは語ります。
あくまで自然体。手を入れていることがわからない状態を全力でつくる。
前に出ない奥ゆかしさは、「家の繁栄」という目的のために活動をするという志が成せる職人の業なんですね。
中村さんは家の中のスペースに庭を作り上げる作庭家です。
畳一畳の小さな空間から、数千坪の大規模な空間まで様々な場所に庭を作ってきました。
中村さんが最初にするのは、施主とのコンセプトイメージの共有。
どんな庭をつくろうとしているか、そこにはどんな意味やメッセージが込められているか、
中村さんの経験と想像力で魅力的な庭のイメージを計画書に落とし込みます。
イメージ画も書き、それを施主と共有するところから仕事が始まります。
「施主さんとの打ち合わせの中でコンセプトを理解していただく。
そこでしっかりと信頼関係を築くことで、末永くお付き合いができるんです。
その場の見た目のキレイさだけではない。日陰になる部分と日向になる部分では使う木が変わります。
昔のようにすべての人が庭についての知識を豊富に持っているわけではない時代です。
施主さんに恥をかかせない様、物事の陰陽を含めて、その家に合ったイメージをカタチにするのが作庭家の仕事です。」
「昔の庭の整備からは学ぶことがいっぱいあります。
例えば玄関までつながる敷石。掘り起こしてみたらものすごく大きな石が埋まっていることも珍しくありません。
見える部分だけではない、見えない部分をいかに考えるか、当時の職人はもういなくても、昔の人たちの仕事から教えてもらうことはたくさんあります。」
京都を中心に世界中で庭園の制作を手掛ける中村さん。
ホームページ等はないため、直接のご紹介を承ります。
奥の深い作庭をご希望の方は和こころまでお問い合わせください。
中村さんの軸は「家を良くする庭を作ること」。
取材では、中村さんの手掛けた庭を少しだけ見せてもらいました。
中村さんは自分が手掛けた庭について、とても嬉しそうにお話をしてくれました。
「ここは敷石を扇に見立てて、こういう意味を込めて作ったんや」
「これは龍を表していてこれは稲妻を表現しているんや」等々。
石や草を様々なものに例えて配置しているというのを聞いた上で見てみるととても面白いんです。
庭づくりは庭を育てること。
どの木を伐ったらどういう風に成長するか、5年後、10年後の姿を想像しながら剪定をする。
剪定をしたことを気づかせないような、自然な見た目を大切にすることで、いつ見ても同じように素晴らしい庭を維持することができる。
その技術は、自然の流れに逆らわず、木の性質を理解した専門家だからこそ成せるものです。
手を入れていないように見えて実はものすごく考えられているというのは、決して自分の仕事をアピールすることなく、本質的に大切にすべきものを理解しているからこその奥ゆかしさ、職人としてのこだわりを感じました。
いろんな場所で「雄さん」「雄さん」と声を掛けられる、とても気さくで、懐の深い人柄、人間力の裏側には、人とのつながりを心から大切にする中村さんの生き方が見えました。
中村雄三 (Yuzou Nakamura)
京都植定 中村造園 代表
昭和23年7月3日生まれ
平成26年度京都市伝統産業技術功労者認定
1967年から、作庭家としての経験は45年以上。
京都に引き継がれる日本庭園のノウハウを駆使し、国内はもちろん海外の庭園も手掛ける専門家。