■染匠吉田隆男を通して見えた「和こころ」

京都の町屋でキモノの修繕「キョート・キモノ・クリニック」を営む手描き友禅の染匠吉田隆男氏を訪ねました。洋服が一般的な現代に、何故キモノが日本の文化としてこれほどの地位を築けたのか、キモノづくりに携わる方々の姿勢に圧倒されました。観光地京都ではない、もうひとつの京都を垣間見ることができました。

■いいものは直せるようにできている

良質なキモノの条件は直せるようにできていることだと吉田さんは言います。
ひとつひとつの仕事が丁寧に手仕事で行われている。
良いキモノだって傷む。
でもその傷んだ時に、その部分を修復することができるように作られている。
職人が自分の技術を最大限に活かして作ったものは全て直せるようにできている。
だから長持ちするし、着続けることができる。
観賞用ではなく、日常使うものとしてのモノづくりを追及した結果出来上がった文化なんですね。

■数百年先を見たキモノづくり

吉田さんは染匠になって55年。後継者はいないません。
昔と今では環境が違う。
昔は学校の勉強もそこそこに、キモノづくりの現場に修行に出て実地で基礎を学ぶというのが当たり前のスタイルだった。
基礎を身につけるまでに10年以上が当たり前の世界。
ちょっとして仕事を任されて、全力で取り組む、その積み重ねができる程の仕事があったし、その中で技術を習得することができた。
だからこそ質の高いものをつくることができた。
でも今は当時と同じような形で後継者を育てることは環境が許さない。

そしてキモノ関係の仕事も減ってきている。
だから後継者を育てることができないんです。
でも手は一切抜かないんです。
それは数百年先を見ているから。

「わしらの代で仕事できるのはこれが最後やで。でもこれが昭和、平成に生きた職人の仕事や。この仕事は必ず廃ってしまう。でもそれが絶滅しても必ずキモノがある限り染に興味を持つ人はいるはず。きっと将来、この技術を再生しようとする人たちが出てくる。だからその参考になる仕事をしよう。そうすることで、お客さんもエエ仕事をしてくれはったと言って大事にしてくれる。何がエエのかわからんけど、キモノに携わる以上、この気持ちを大切にしていきたいと思っている。」
お金ではない、職人としてのプライドが品質の良さに繋がっている。

生き様として本当に格好いいと思いませんか?

■「もうちょっと」が大事

仕事に取組む姿勢として、「もうちょっと」が大切だと吉田さんは言います。
「もうちょっとできへんか?」その気持ちが良いものを作ることにつながる。
「もうちょっとわかったらええんとちゃうか?」その気持ちが業界全体を把握し、適材適所に仕事を振ってどんなものでも直せるようになる。手描き友禅の技術で治せる部分には限界がある。でも、知り合いをつなげれば、仕立て直しなら和裁、生地なら友禅染、西陣織などと連携して修復が可能。それは長い間の経験の積み重ねで構築してきたネットワークがあるからできること。そんなネットワークを活用して家の中にあるけど忘れられるものを活かすことが私たちの仕事。箪笥の中で眠っていたものを生き返らせる。


■箪笥に眠っているキモノをもう一度

昔は悉皆(しっかい)という仕事がありました。汚れたキモノをきれいに再生する仕事。しかし、言ってしまえば汚れ仕事。やる人が少なくなり、呉服屋さんも新しいキモノを売る方が利益が上がるから直しではなく、買い替えを薦める。結果として箪笥の中に昔のキモノが溢れてしまっている。直しの仕事が減ったことで、目利きの数も減ってきた。キモノを着ることは外側だけではない。レンタルでもいいかもしれないけど、それをきっかけにキモノの本質的な魅力に触れてほしい。キモノを着ることだけでは和装文化の振興にはつながらない。京都の文化も含めてちゃんとキモノについて知ってもらいたい。直すだけと違って再利用して歓びを感じさせられるものを提供していきたい。
そんな志を持って活動を続ける吉田さんの話には、私たちが学ぶべきことがあるような気がします。

■取材を終えて

吉田さんは、手描き友禅の染匠であり、京都の伝統産業を考える京都伝統産業工芸会の会長です。
京都の町屋で昔のキモノを甦らせるキョート・キモノ・クリニックを運営しながら、子供たちに友禅体験を提供したりもしています。そんな吉田さんの一番の魅力は「人とのご縁を大切にしていること」だと思います。職人としての道を歩み始めた当初は、生地、染、仕立てなど、キモノに関する様々な職人の下で勉強し、キモノづくりのノウハウを身につけました。ひとりの師匠から数十年かけて技術を学ぶ職人の世界で、それぞれの工程で複数の師匠を持って積み重ねた経験が今に繋がっています。
吉田さんが引き継いだのは、技術よりも「志」。どんな考え方を持ってそれぞれの工程の職人が活動しているか?どうすることが業界にとって一番なのか?
一つのことに特化する職人との信頼関係を築き、全体を見て設計をする。キモノコンダクターとしての吉田さんならではのノウハウが生まれた理由がそこにあると思います。京都伝統産業工芸会の会長というのも、会員の誰もが認める存在です。

業種業界が違っても、京都の伝統産業、伝統工芸がどうあるべきか、会員のことを考え、全体を見て話ができる吉田さんの能力は誰にも真似のできない吉田さんだけのものです。手描き友禅染匠という職人でありながら、職人ではないバランス感覚を持っている。それは京都の職人にとってなくてはならないモノなんだと思います。
そしてその感覚は、複数の人が絡むプロジェクトやチームビルディングにとっての重要なヒントになると感じた取材でした。

☆キョート・キモノ・クリニック
諦めていたあのキモノをもう一度。

専門家の知識と経験とネットワークで、シミや日焼けで切れなくなったキモノを甦らせます。

※状況に応じて数ヶ月単位の時間がかかることがあります。
※お問い合わせの際は「和こころを見た」とお伝えください。
キョート・キモノ・クリニック